源氏物語には、四百三十人以上の人物が登場します。ほとんどの人物が引っ込み思案で憂鬱な人となりで、それは大いに当時の人々の世界観に関係があるわけですが、ともかく考えてばかりいて出口を見つけない人ばかりです。そんな中で少々性格を異にしている登場人物、キャラクターがまずは夕顔、そして近江の君ではないかという気がします。
仮面をはずした光君に対して「たいしたことないわね」なんてことを言う夕顔については、そこを魅力に感じておられる方もきっとずいぶんいらっしゃるのではないかと思います。私もその中のひとりです。これだけでも源氏物語の、どうにもならぬ帳のような気の重さを瞬間晴らす、けっこうな、風穴です。そしてもうひとり、近江の君というのは、田舎者で早口で無骨でつくる歌もひたすらにまずい、けれども妙にやる気だけはある、玉鬘の比較参考引き立て役として現れる女君ですが、この君がなんだかとてつもなくいじらしくて可愛らしい。物語の中ではどうにもすくいようのない書かれ方をしていますが、作者・式部にとってはけっこう愛着のあるキャラクターなのではないかとふと思いますし、また、そうであってほしいと思います。
平成27年3月20日 夕顔と近江の君。
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